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冬に早起きが難しい2つの理由

睡眠リズムや睡眠時間には季節変動がある

食事、運動と並び、健康を支える3大要素の1つである睡眠。
「しっかり眠れば、病気も治りやすい」ことは、多くの医師が体験していると思います。本講座では、医療現場で遭遇する患者さんの睡眠問題をどう診立て、いかに対処するかを紹介していきます。

 睡眠には季節変動が見られます。夏季に比較して冬季には起床時刻が遅れ、睡眠時間が延長します。中には冬季不眠症と呼ばれる状態になる人もいます。


めっきり日が短くなり、起床時刻になってもまだ薄暗い季節になりました。毎朝、アラームが鳴っても目が覚めにくく、暖かい布団から出たくないと感じている人も多いと思います。起床時刻が同じでも冬になると起床しにくくなる原因は寒さだけではありません。その背景には体内時計機能の季節変動があります。

 日の出時刻、日の入り時刻、日長、日照量などの環境光条件はヒトの睡眠や生体リズムの季節変動を引き起こします。特に日の入り時刻(日没時刻)が早いことと、日照量が少なくなることが体内時計の時刻(生体リズム位相)の遅れをもたらします。その結果、深部体温やメラトニン、コルチゾールなど睡眠調節に密接に関連している生体機能リズムの位相が、冬季には大幅に遅れることが分かっています。

 普段の就寝時刻近くになると深部体温(脳温)が低下し、催眠作用のあるメラトニンの分泌が増加し、逆に覚醒作用のあるコルチゾールが低下することで眠気が出現し、私たちは眠りに入ります。起床時刻にはこれと逆の現象が生じることで健やかに目覚めることができるのです。ところが、冬季の間にはこれらのタイミングが遅れてしまいます。

 例えば、北海道大学が測定したデータでは、夏季に比較して冬季では直腸温(深部体温)リズムの位相が1時間21分、メラトニン分泌リズム位相は1時間45分、それぞれ後退していたといいます1)。非常に大きな季節変動ですね。位相後退の程度は、その人の住む地域の緯度によって異なります。北海道など高緯度地域(北国)ほど日の出時刻や日照量の季節変動が大きいため、冬季の位相後退も大きくなります。

 ただし、北海道の方々が実際に1時間以上遅れて寝起きしているかというと、そうではありません。出社や登校などの社会時刻の制約があるからです。これが問題なのです。

 例えば人の深部体温は普段の入眠時刻の2時間ほど前から低下し始め、明け方、覚醒時刻の1~2時間前に最低となり、その後上昇に向かいます。体内時計の指令のおかげで、私たちは少し頭がホットになったタイミングで目覚め時刻を迎えることができます。ところが、北海道ではもっとも脳の温度が低い時間帯に目覚めなくてはならないわけです。

冬季には睡眠時間が長くなる

もう一つ、冬季に起床しにくい理由があります。冬季には睡眠時間が長くなるのです。夏季に比較して冬季には、入眠時刻には目立った変動が見られませんが、起床時刻が遅れ、結果的に睡眠時間が延長することが明らかになっています。これは脳内のセロトニン機能の低下が関連していると推定されています。冬季には髄液中のセロトニン代謝物の濃度が低下し、逆にセロトニン受容体濃度が増加するなど脳内のセロトニン含量の低下を示唆する知見が報告されています。

 リアルワールドでの睡眠時間の季節変動は、通勤時間の長短など社会要因の影響を受けます。名古屋市立大学のグループは、ベッド脇に置いたモーションセンサーで睡眠中の体動をモニターすることで睡眠時間を推定するデバイスを用いて睡眠の季節変動を経年的に解析した結果、覚醒時刻が夏季に比較して20分以上遅くなっていたそうです2)。

 このように冬季には起床時刻が遅れ、睡眠時間が延長するため、朝に目覚めにくくなるのです。北欧などのさらに高緯度地域では、11月初旬から始まり冬の期間持続する「冬季不眠症(mid-winter Insomnia)」と呼ばれる不眠症も報告されています。

 先に、冬季でも入眠時刻には目立った変動が見られないと書きましたが、北欧のように昼が8時間、夜が16時間などの短日条件になると、北海道に比べてもさらにリズム位相が交代するため寝付きも非常に悪くなります。そのため、入眠困難型の不眠症と同じ症状が出現するのです。北部ノルウェーの調査では、住民の約4人に1人が冬季不眠症に罹患していたそうです3)。

 北欧ほどではないにしても、日本でも北国を中心に同じような悩みをもつ人がいると思われますが、実態はよく分かっていません。治療は一般的な睡眠薬ではなく、リズム位相を前進させる効果のあるメラトニン(受容体作動薬)や高照度光療法(日光の活用でもよい)が主体となります。